『心の扉をひらく本との出会い―子どもの豊かな読書環境をめざして』書評


●日本教育新聞 2002.11.01  心の扉をひらく本との出会い 子どもの豊かな読書環境をめざして

読書活動推進へ具体策示す

 最近,子どもの読書については,子ども読書活動推進法の施行,学校における朝の読書の普及,来年度からの司書教諭の配置,子ども読書ボランティアの活動など,大きなうねり,変化の時期にさしかかっている。それだけに,問題点や課題も数多く,しっかりとした位置づけや指針が重要になってくる。そして,「感動は心の扉を開く」と言われるように,子どもたちを素晴らしい質の高い本と出合わせ,ひとみを輝かせ,より大きな内的世界を有する自分へと成長させることがますます重要になってきている。
 こうした課題にこたえて,本書は厳選された参考図書と豊富な事例を挙げながら,子どもにとっての読書の意義を分かりやすく伝えている。児童文学者で国際子ども図書館を考える全国連絡会会長の松居直氏も,推薦文の中で「本書には『子ども読書活動推進法』を具体化する指針がよく示されています。著者は学校,公共図書館,読書ボランティア,子ども読書推進団体などで,公私にわたり子ども読書に直接かかわり,貴重な経験をもつ数少ない専門家です。そうした広い視野に立って,子どもの読書の現状を分析し,問題点を鋭く指摘し,だれが,どこで,どういう本を,どう薦めるかを的確に示した,今もっとも必要とされる研究書です」と高く評している。
 読書は不易のもの。映像社会にあって,教育や地域社会を変えていくキーワードに読書があることを教えてくれる。(郎) 北大路書房 1900円 TEL075・431・0361


●神戸新聞(明石版)2002.11.19 朝刊
情操はぐくむ子どもの読書
県立図書館 笹倉さん
大切さ説く本出版


 子どもらの読書の大切さをつづった「心の扉をひらく本との出会い」を,県立図書館(明石公園)の主任調査専門員笹倉剛さん(52)=多可郡中町中安田=がこのほど出版した。多くの絵本や読み聞かせ効果の事例などを紹介しながら,本が児童の情操をはぐくむ力を説明。子どもの読書環境の整備を訴えている。
 笹倉さんは,黒田庄中学などの数学教師を経て同専門員に。十年ほど前から読み聞かせを始め現在,「北はりま『子どもの本の学校』」などを主宰。全国各地で講演活動をしている。
 今回が二冊目の出版となる。昨年十二月に「子ども読書活動推進法」が施行され,学校図書館の図書購入費などに充てる地方交付税が増え,県も基本計画策定に動き出した。この機会に,四月から読書の復権について執筆してきた。
 本の中で笹倉さんは,学級崩壊や荒れる子どもたちは読書離れと関係があると指摘。朝の読書を始めた学校では授業中の立ち歩きがなくなった―などの実例を紹介した。
 今後の読書環境の整備として,十二学級以上のすべての学校に来年度から司書教諭が配置されることに注目。石川県松任市の中学校の事例を示して,学校図書館専任の司書がいれば,児童の読書量が増えることを紹介している。
 笹倉さんは「活字文化を取り戻すため勝負をかけた本。法律などを生かし子どもの読書を復活させたい。まずは大人から本を読むことが大切」と話している。北大路書房から発行。A5判,二百三十五ページ。千九百円。全国の書店で販売している。


●朝日生命保険相互会社広報ユニット 月刊さんさん 2003年4月
Interview
一冊の本との出会いがかけがえのない財産となる


■笹倉さんは,なぜ,子どもにとって読書が必要だと思うのですか?
 「幼少年期の感性の鋭い時期に,人間の五感を刺激するような体験を積むことは,人間形成の上でもっとも重要であると言われています。読書という行為は間接体験ですが,直接に体験できないようなことでも体験できる良さがあります。本によって喜びや悲しみを感じること,また,そのように感性を刺激してくれる本との出会いは,その人の心の財産になります。幼い頃に楽しんだ物語が心にしみて,その後も子どもの心の根を潤しつづけることになるのです」
■本文中で笹倉さんが主張されている「読み聞かせ」には,どのような効果があるのですか?
 「<読み聞かせ>は活字を読まないで耳から聞くので,本の話に集中することができます。だからそのぶん,お話の世界に没頭することができます。絵本のような静止画でも,読んでもらうことによって,その静止画が子どもの想像力やイメージで動き始めるのです。幼い頃にたくさんの本で豊かな感性や情感を身につけた子どもは,人生のさまざまな場面でその影響を受けることになると思います」
 非生産的であるかもしれないが,親や先生が自分の子で絵本などを読み聞かせすることによって,話し手とともにお話を楽しみながら,その場の雰囲気にあった心のキャッチボールができるのである。(本文より)
■子どものよりよい読書のために,まわりの大人がするべきことはどういうことですか?
 「何よりも大人と子どもが,子どもの本を一緒に楽しむということが基本です。義務感で<読み聞かせ>をしてもあまり効果はないのです。子ども自身がそのことをすぐに悟りますから。まずは親子でたくさんの本を読むこと。そして,子どもが何回も読んでほしいという本は,徹底的に読んであげてください。とくに気に入った本があれば購入して,いつでも自由に読めるようにするといいと思います。子どものもっとも感受性の鋭い時期に,親子が一冊の本で,共通の感動体験が得られることに大きな価値があると思います。また,親が子どもに伝えたいメッセージも本の中にたくさん隠されているし,そのような体験の継続こそ重要なことではないでしょうか」
 本との出会いは,「いつでも」「どこでも」「だれでも」,時間さえあればできる。そのような本との出会いを手助けできるのは,子どもの周囲にいる親であり先生であり友だちである。(本文より)
■「子どもの読書離れ」については,どのように考えていますか?
 「いまの社会状況が大きく反映していると思います。物資が豊かな時代に育った子どもは,さまざまな情報があふれているので,自分にとって何が良いのか分からないという不幸な面もあります。とくに今は,映像などの影響によって,活字に親しむことから大きく遠ざかっています。そういう子どもたちを,読書という活字文化に引き戻すのは大変なことですから,小さい頃から質の高い,良い本との出会いを経験させることが大切です。一方的に流れてくる情報を楽しむだけではなく,何が書かれているのかを考えながら読む読書は,『ことば』のもつ大切さを認識し,生きていくための知識や豊かな感性を身につけるのに有効な手段だと思います」
■最後に,子どもにとって読書とは?
 「『子どもは楽しみを食べて生きる』と言われています。読書は本当に,幅広くさまざまな楽しみを体験できる行為だと思います。読書の基本は“楽しみ”です。本を読むことによって,その想像的な世界で自由に遊べるからです。そして,読書は上質な喜びの体験だといえます。しかし,読書をすることが学習の手助けになるからと,本を読むことを強要したり,感想文を書かせたりしてはいけません。そうすることで,だんだんと本を読むことが重荷になって,読書本来の楽しみが薄らいでくる場合もありますから。質の高いすばらしい本に出会った子どもは,生涯その読書体験を忘れることはありません。幼い時の,本による感動体験が人間の豊かな感性を育んで,その子どもが大きくなった時,さらにそのまた子どもにもその恩恵は受け継がれていくのです。映像・情報化社会に生きる子どもたちにとって,心の血肉となる本との出会いを手助けするのは,周りにいる私たち大人の使命ではないかと考えています」

Profile
笹倉 剛

1950年兵庫県生まれ。京都教育大学卒業。兵庫教育大学学校教育学部付属中学校,兵庫県立図書館調査専門員,兵庫県立教育研修所主任指導主事を経て,現在,兵庫県立図書館主任調査専門員,北はりま「子どもの本の学校」主宰。「絵本セラピー旅の会」事務局長。著書に『感性を磨く「読み聞かせ」』(北大路書房)がある。


●日本図書館協会 図書館雑誌 2003年4月 心をひらく本との出会い―子どもの豊かな読書環境をめざして

図書館員の本棚

心の扉をひらく本との出会い
子どもの豊かな読書環境をめざして
笹倉剛著
京都:北大路書店,2002,xx,235P;19cm
ISBN:4-7628-2276-0
NDC9:019.2 BSH4:読書指導
 「人間は環境の動物である」といわれる。実際,身近に読書環境が整えられていなければ,子どもたちは本に出会えない。
 2001年に制定された子どもの読書活動の推進に関する法律の基本理念には「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう,積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」と定められており,現在都道府県における推進計画の策定が進められているところである。
 しかし,「なぜ子どもに読書が必要なのか?」と問われたとき,きちんと論理的に答えることができる人は,それほど多くない。
 「当然のことであり,自明の理だ」と熱く語るだけでは,財政的な措置をも必要とする子どもの読書環境を整えることはできないのである。
 本書は,資料や統計,事例,エピソードを多数紹介し,分析しつつ,子どもにとッての読書の意義を伝えている。引用されている名文の数々に圧倒されがちだが,その解釈として書かれている著者の言葉こそ,名言である。
 著者自身,現役の県立図書館職員であり,学校,公共図書館,読書ボランティア,子ども読書推進団体などの組織に所属していたこともあり,子どもの読書にかかわるさまざまなアプローチの方法を十分理解し,それぞれの立場を熟知した上で,今後進むべき道を示唆している。この本から,子どもの読書活動に関わるあらゆる人が,子どもの読書活動の推進に関する法律を具現化し,実践するためのヒントを得られるだろう。
 構成は,第1章「今,子どもにとって読書とは」,第2章「読書がもたらしてくれるもの」,第3章映像文化と子ども読書」,第4章「子ども読書への新たな挑戦」となっており,本質的なことから,現実に起こっている社会問題,そして子どもの読書環境を整える必要性に至っている。
 第1章では,『橋をかける』という本にもなった,美智子皇后の国際児童図書評議会(IBBY)講演(1998年)や,子ども読書年(2000年)の理念等を挙げ,「本との出会いを手助けできるのは,子どもの周囲にいる親であり先生であり友だちである」と述べ,幼児期からの本との出会いの重要性を説く。
 第2章では,読書とは「自分探しの旅」であること,そして「子どもに教えることはすべて本の中にある」という松井直氏の言葉やレイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』,瀬田貞二著『幼い子の文学』を紹介しながら,『おおきなかぶ』や『ちいさいおうち』,『はなのすきなうし』等の優れた絵本を紹介する。
 第3章では,統計資料や新聞記事を用い,現代の情報化社会に生きる子どもたちの置かれている環境にふれ,テレビや携帯電話,コンピュータ等の情報機器,映像機器が子どもたちにもたらす影響を分析し,警鐘を鳴らす。
 第4章では,読書ボランティアや文庫活動,「朝の読書」やブックスタート,出版社による読み聞かせキャラバンなど,最近のトピック等を挙げ,現在の主だった動きを紹介し,子どもの読書活動推進に関する法律について述べている。
 余談ではあるが,渡辺鉄太氏の序文に書かれている愛娘鼓子さんとのエピソードを読み,もしやと思って『心に緑の種をまく』を読み返してみた。鉄太氏の父,渡辺茂男氏が記したこの本も,鉄太氏と鼓子さんのエピソードから始まっており,興味深い。
 著者が最後に『心の緑の種をまく』からの引用で締めくくっているのにならい,拙稿も著者の冒頭言で締めたい。
 「本来,本がきらいな子どもはひとりもいない。本が嫌いな子どもは,本に親しめるような環境が与えられなかっただけである。」(鈴木史穂)