『ヴァーチャルインファント』書評


●BOOK REVIEW 2000年6月2日 出版社

言語獲得シミュレータMLASを通じて,人間の獲得の謎に挑む!
 これまで多くの人が挑み,いまだその具体的回答を得ることのできていない問題の一つに,人間の言語獲得の問題があります。人間の言語獲得の問題について,何といっても最大の関心事は「なぜ人間の赤ん坊は世界のどこでうまれようとも,数年で母国語(たとえば日本語でも英語でも中国語でもスワヒリ語でもハングル語でも)を獲得し,しゃべれるようになるのか? そのメカニズムはどうなっているのか?」ということにつきると思います。そして,現在までにこの問題について多くの人がその謎を解き明かそうとアプローチを試みているものの,今だ,皆が得心のいくような説明づけを得られていないテーマでもあります。
 この問題について,この本の著者たちは,コンピュータ上に,人間の子どもと同じように言葉を習得して成長していくシミュレーション・プログラムを作り上げ,言語の獲得過程を再現してみせることによって答えようとします。
 著者たちは,その人間の言語獲得過程をシミュレートするプログラムにMLAS(エムラス)という名前を付け,キーボードを通してMLASに語りかけます。語りかけが始まるまでに,MLASは何ら前提となる知識(辞書のようなもの)を保有していません。この点で人間の赤ん坊と同じ様な状態にあります。ですからはじめのうちは語りかけられたことばの意味も全く理解できません。しかしそのまま語りかけを続けていくと,やがてMLASは語りかけられたいくつかのことばから,その差異と共通性を抽出し,その規則性を自ら関数として生成し,記憶・保持します(つまり関数を生成する関数=関数生成関数をMLASはもっているのです)。そして抽出された差異ならびに共通性のデータを基にして語義や統語など言語的機能の獲得を進めていくのです。
 人間の赤ん坊が大人からいろいろとことばを語りかけられ,それを吸収して,やがて,ことばを理解し自らことばを発するようになるとの同じように,MLASも語りかけの度合いに対応してことばを獲得していくのです(だいたい5歳児くらいのところまで成長しています)。
 信じられますでしょうか? 「デマ」だと思われるでしょう? マユツバだと思われることでしょう。でも本当なのです。
 この限りない可能性を秘めた研究を,専門家にかぎらず多くの方に知っていただきたく,できるだけ平易なことばと内容の構成で本書は編まれました。

●朝日新聞(夕刊) 2001年2月3日 単眼複眼

人間はいかに言葉を覚えるか
「仮想空間赤ちゃん」で探る

 赤ちゃんがどのように言葉を覚えるのかは,発達心理や言語学のなぞとされてきた。コンピューターに言葉を覚えさせることを通じて,この問題に挑んでいる研究者がいる。
 須賀哲夫・日本女子大学教授,久野雅樹・電気通信大学助教授らがつくっている「MLAS(エムラス)」は「赤ちゃんコンピューター」といえるプログラムだ。
 仮想空間の中に,「赤ちゃん」自身のほかに,時計や箱,本などの物体が配置されている。研究者が「親」となって,キーボードから「わたしはおかあさんです」などの会話をキーボードから入力する。「赤ちゃん」は最初は白紙の状態だが,違う部分と共通する部分を見分ける能力はある。
 「赤ちゃん」は「あのはこはきいろいです」「このほんはあおいです」といった文章を聞くと,「あの」「この」や「きいろい」「あおい」などの違う部分を比べ,「青い色」を「あおい」と表現することなどを学んでいく。
 須賀さんらは日本語だけでなく,英語,フランス語,さらにはトルコ語,スワヒリ語なども教科書片手に試みているが,どの言語でも具体的な表現については「4,5歳程度の能力は身につけられる」という。考えて見れば単純な方法だが,須賀さんは「赤ちゃんの言語獲得のかなりの部分を,この方法で説明できると思う。今までが複雑に考えすぎていたのではないか」という。
 今のところ,MLASは「うれしい」「悲しい」「美しい」「みにくい」「良い」「悪い」といった表現は扱えない。また,「おなかがすいた」という表現ができるためには,「空腹」という状態がなければならない――いいかえればMLASに身体が必要になる。
 現段階ではこんな難しさがあるものの,須賀さんは「2年後には“意識”をつくります」と豪語する。
 研究は2人の編著書『ヴァーチャルインファント』(北大路書房)に詳しい。須賀さんは「半分ホラですが」と言いつつも,研究が進めばエスペラントのような人工言語をつくる手がかりになるのではないか,あるいはイルカの言語を聞かせて理解させられないか,と夢を膨らませている。

●出版ニュース 2000年9月/上 地方出版

 人間の言語獲得のメカニズムを解明するために,日本心理学会に属する著者らはコンピュータ上に人間の子どもと同じように言語を習得して成長していくシミュレーション・プログラムを作り,言語の獲得過程を再現しようとしている。
 このプログラムは著者らによってMLAS(エムラス)と名づけられており,キーボードを通して語りかけていくとMLASは語りかけられた言葉の差異と共通性を抽出し,その規則性を自ら学ぶようになり,ひいては4,5歳レベル相当の言語能力を獲得するようになった。本書ではそこまでの成長過程で解明された言語獲得のプロセスを示しながら,MLASを特徴づけるストーリー・ベースの言語獲得の理論的意義についても考察していく。