『形成期の痴呆老人ケア』書評


●赤旗 1999年5月24日 形成期の痴呆老人ケア―福祉社会学と精神医療・看護・介護現場との対話

介護保険制度 仕組みと欠陥がわかる本
国・自治体に求められる都市基盤

 制度そのものではありませんが,石倉康次編著『形成期の痴呆老人ケア』(北大路書房・2500円)は,介護保険で対応する痴呆老人サービスの遅れが危ぐされているだけに,その分野での実践と今後のケアのあり方の提起が役立ちます。80年代から始まった介護現場や介護者家族の実践的な模索の過程は一つ一つが感動をよびます。

●福祉のひろば 特集80号 1999年10月号 形成期の痴呆老人ケア―福祉社会学と精神医療・看護・介護現場との対話

著者に聞くより抜粋

 本書では,70年代末から手探りで痴呆老人を人間として尊重した先進的なケアの模索の後をたどり,その底流に流れる思想と具体的な技法を明らかにすることを意図しました。痴呆老人ケアは未だ形成期であり,全国にスタンダード(標準的)なケア実践が確立されていません。その中で,痴呆老人の介護にとっても問題多い介護保険制度が出発するのです。痴呆老人と家族の現実から出発して何が本当に求められているのか,人権を尊重する現場従事者の姿勢はどうあるべきか,家族は痴呆とどう向き合えば良いのか,メッセージを読みとっていただければ幸いです。(石倉康次)

●中国新聞 1999年4月22日 ゆたかなシニアライフ-1★シニアライフをどうとらえるか―研究の方法と視点,形成期の痴呆老人ケア―福祉社会学と精神医療・看護・介護現場との対話

「高齢者=迷惑」じゃない!!
広島の研究者らが相次ぎ編著2冊
尊厳を認め接しよう「形成期の痴呆老人ケア」
知的好奇心を大切に「シニアライフをどうとらえるか」
 痴ほうになったら何も分からなくなる,という有吉佐和子のベストセラー小説「恍惚(こうこつ)の人」などでつくられた痴ほうや高齢者の否定的なイメージを変えようとする編著書2冊が広島の研究者たちによって相次ぎ出版された。いずれも痴ほうや高齢化ですべての機能が衰退するのではないと強調し,家族や地域も高齢者の知恵など残る能力を認めて心豊かな生活を支えようと呼びかけている。
 広島大総合科学部の石倉康次・助教授編著の「形成期の痴呆老人ケア」(2500円)と柿木昇治広島修道大人文学部教授と山田富美雄大阪府立看護大看護学部助教授編著の「シニアライフをどうとらえるか」(2300円)で,ともに北大路書房(京都市)発行。
 「形成期の―」は,特別養護老人ホームや精神科などの現場をよく知る13人が執筆。1987年から11年間にわたり地域のボランティアが痴ほう性老人を預かっている高知県安芸市の託老所「わすれな草」や,93年に出雲市の精神科クリニックに併設されたデイケア施設「小山のおうち」など先駆的な事例を中心に「痴ほう性老人の居場所づくり」や血の通ったケアのあり方を説く。
 「小山のおうち」の痴ほう男性の手記の一節。
 「どうなったのかなあ,おれは,恥ずかしいなあという感じがします。(中略)同じことを何回も言われると腹が立って手が出ます。迷惑をかけるようになって,罪悪だと思っています。妻に悪いなあと思います。まさか私がこんな病になるなんて,思ってもみなかった」
 福祉社会学専攻の石倉助教授は,「痴ほうになると子どもに返り何も分からない,と家族がそばで平気で悪口を言ったりするのは間違い。本人はすべて分かって悲しい,つらい思いをしている。ただ,記憶力や判断力の一部が欠けているだけ」と指摘。家族など周囲は「介護の視点からだけでなく本人の思いを受け止め,人間としての尊厳を認めながら接してほしい」と求める。
 また,脳血管障害やアルツハイマーなど病気としての痴ほうと,徘徊(はいかい)など問題行動,生活する上での支障を分けて考えることが大切だと強調。医学的に痴ほう症の治療法がない現状では「その人の置かれている人間関係,生活環境に応じたケアで症状や問題行動を軽減している先進事例をもっと学んでほしい」と話す。
 一方,「シニアライフ―」は,柿木教授らが「ゆたかに年を取るにはどうしたらいいのか」をテーマに全国の研究者に呼びかけ,活動しているシニアライフ研究会の議論をもとに大学などの研究者12人が執筆。主に心理学,精神医学,哲学の視点から加齢(エイジング)に伴う変化を理論的に解明している。
 柿木教授は「高齢になるとすべての機能が衰退するのではない。衰退する機能,衰退しない機能を知ることが必要」と話し,特に芸術分野で老年期に円熟した作品が多いことを例に,豊かな生活を送るためには知的好奇心を持ち続けることが大切だと説く。
 高齢社会を迎え,身近な高齢者にどう接するか,自分自身がどのように年齢を重ねていくのか。2冊の本はそうしたことを考えるきっかけになりそうだ。