『『チビクロさんぽ』の出版は是か非か』書評


●出版ニュース 1999年3月/下 情報区

 マスコミで採りあげられ話題になった絵本『チビクロさんぽ』の“出版の是非について”というテーマをもとに昨春,インターネットのメーリングリスト上で,心理学者や学生による討論が行なわれた。市川伸一編『「チビクロさんぽ」の出版は是か非か』(A5判・241頁・2000円)は,その討論の一部始終を収録したものである。
 ヘレン・バナマン原作の『チビクロサンボ』が相次いで絶版になってから10年ほど経過した97年10月に,森まりも氏(心理学者守一雄氏のペンネーム)の改作による『チビクロさんぽ』が刊行された。「チビクロ」という犬の「さんぽ(散歩)」の話としたこの絵本は,好調な売れ行きを示す一方,内容の是非をめぐって賛否両論が相次いだ。
 編者は,東京大学教育学部で行っている「討論の心理学」というゼミで,討論のテーマとしてこの本の出版の是非をとりあげた。
 そしてさらに守氏をはじめ,心理学者も加わって電子メールによる討論が1カ月にわたって行なわれた。本書は,約40名,400通の電子メールでの討論を臨場感そのままに編集。
 討論は差別とは何か,出版における自由と配慮,生産的な討論のあり方などテーマもさまざま,話題もあちこちに飛んだり,罵声がとびかったりと,決して模範的な討論ではなかった。訳本の絶版に対する識者とは異なる意見などもあり,この問題を広く考えるための素材を提供している。
 読後のコメンテーターとして,きたやまおさむ,中山千夏,日垣隆,灘本昌久各氏のコメントを収録。
 また本書は,討論そのものについての格好の研究素材ともなっている。