『いじめのない子どもたちの世界』書評


●日本教育新聞(九州版) 1998年7月4日

中国・ウイグルの子を調査し,比較
表情生き生き,家族思い
「百聞は──」と写真で主張

 シルクロードの子どもたちの瞳は輝いていた―。いじめ・不登校など今日の子どもが抱える問題に取り組んでいる福岡教育大の横山正幸教授(発達心理学)がこのほど,中国・新疆ウイグル自治区での調査研究をもとにした「いじめのない子どもたちの世界」と題する本を出版した。ウイグルの子どもたちの生き生きとした生活ぶりを紹介しながら,日本の子どもの問題点を浮き彫りにしたもの。学術研究でありながら,難しい解説は極力減らし,「百聞は一見にしかず」と,約100枚に及ぶ子どもたちのスナップ写真でわかりやすく説いた異色の教育図書となっている。
 ウイグルは,中国の西端に位置,面積は日本の4.4倍ながら,大半は砂漠など荒れ地で,全人口は約1600万人。ウイグル人をはじめ13の民族が共存している。
 横山さんたちの調査は,同大学の碇浩一教授(精神医学)らが9年前から行っている「日中友好交流子どもキャンプ」がきっかけ。そこで見たウイグルの子どもたちの生き生きとした表情の背景を探ろうと,同大学の研究者グループが3年前から文部省の国際学術研究「ウイグル民族と日本の子どもの生活環境の比較研究」の一環として行ってきた。
 横山さんらはこの間,現地の子どもたちにアンケートや聞き取りなどの方法で,調査したが,そこでわかったことは,日本で大きな問題となっているいじめがないということ。大半の子がいじめの意味もよく理解できなかった。また,どの子も学校が楽しいと感じており,家では,子守などの手伝いを当然のこととして行っている。
 子どもたちの心のあり方も,日本とは大きく異なり,例えば「願いごと」と尋ねると,「両親が健康で長生きすること」や「家族が幸せになること」など,親や家族を思いやる答えばかりだった。日本の子どもに同じ質問をすると「お金がほしい」や「ゲームソフトがほしい」,あるいは「何もない」「眠りたい」といった言葉が返ってくる。決して「お父さん,お母さん」を思う言葉は出てこない―と横山さんらは指摘する。
 今回の著書は,このようなウイグルの子どもたちの実態を,調査結果などを交えて紹介しながらも,硬い学術書にならないよう編集を工夫。いわば,写真集とも言えるほど,写真を多用し,わかりやすくした。
 というのも,現地で子どもたちの生き生きした姿と接するうち,文章では表現できないことを痛感,その結果,調査自体も写真の援助を借りることが多くなったから―と横山さんは言う。
 本は,A6判,103ページ。執筆は,横山さんをはじめ研究グループ4人の共同で,ウイグルの子どもたちの学校生活や家庭での手伝い,遊びの様子などを約100枚の写真と文で紹介。第4章では,「いじめ問題の抜本的解決のために」と題する提言を加えた。
 横山さんは,「プロでもない者が写真集を出すなど,本当は大それたこと。でも,私たちが訴えたいことを伝えるためには,これが一番と考えました。この写真が,いじめのない子ども世界を作るために,今何をすべきかを考えるきっかけになれば」と話している。

●西日本新聞(朝刊) 1998年6月29日 春秋

 「泣きじゃくる」という表現があるが,中国新疆ウイグル自治区の子どもたちは「笑いじゃくる」のだそうだ。「息を吐くときも吸うときも笑うのである。笑いで胸を膨らませ,胸いっぱいの笑いがあふれるように顔からこぼれ出る」▼日本の子どもたちに,そんな笑いがなぜ消えたのか。福岡教育大の横山正幸教授らはそんな思いでウイグルの子どもの生活環境調査を行った。その内容が写真とわかりやすい文章で本になった(「いじめのない子どもたちの世界」北大路書房)▼大きい子と小さい子が群れをなして遊ぶ,けんかがあるとだれかが止める,子守や家の手伝いをよくする,祖父母と行動を共にする―日本の子とウイグルの子の生活の違いは,そんな平凡なことだ。かつては日本の子もそうだった。▼子どもは皆,可能性を持っている。しかしそれは,年齢に応じて体験すべきことを体験して初めて花開く。大事なのは,親に言われての「させられ体験」やテレビなどの「疑似体験」ではなく「能動体験」「直接体験」だと横山教授は言う▼問題は日本の社会のありようがその体験を阻害していること。@子どもが自分ですべきことに手を出しA必要以上に物を与えB家族の一員としての役割を与えずCしつけや教育を学校や塾に任せている家庭の責任はことに重い▼遊びや家族とのだんらんといった必要な「体験」を奪ってまで子どもを学習塾に通わせるのは「児童虐待である」と横山教授は警告している。

●読売新聞(夕刊) 1998年6月17日 

いじめない世界あった
中国・新疆ウイグル 子供たち,いきいき
よく手伝いよく遊ぶ
福教大グループが調査,写真集

 いじめや不登校の原因を子どもたちの生活や人間関係から探ろうと,中国・新疆ウイグル自治区で聞き取り調査を続けている横山正幸・福岡教育大教授(発達心理学)の研究グループが,調査の合間に撮影した写真で構成した「いじめのない子どもたちの世界」(北大路書房刊)を出版した。横山教授は「データを並べるより,子供たちの表情を見てもらうのが一番。混迷する日本の教育問題を解決する手がかりになれば」を期待している。
 研究は文部省の助成を受けて1996年5月に始まり,来年3月まで行われる。横山教授はこれまでに4回,現地を訪れた。
 どの集落でも,大きい子,小さい子が入り交じって,鬼ごっこや石けり,コマ回しなどに熱中。幼児を抱き,子守りをしている子も目立った。職人街では,男の子が父親と一緒に木工や金細工に汗を流し,バザールには,スイカや学用品を売る子供がいた。いじめや不登校はなかった。
 最初は,データを取り,数量化して客観的に文章で説明しようとしたが,子供たちと触れ合ううちに,文章では表現しがたいものがあると知り,いつしかインタビューより写真を撮ることが多くなったという。
 写真集では,撮りだめした3000枚以上の写真の中から100枚を厳選し,「学校は楽しい」「親を思う子どもたち」「遊びに熱中する子どもたち」などの項目に分類して紹介。巻末で,いじめ問題の抜本的解決のための提言をまとめている。
 横山教授は「いじめ,不登校は子供たちの生活に関係がある」と指摘。「写真が教えてくれるのは,子供たちが家族の一員としてよく働き,子守りをし,時間を忘れて遊ぶ生活をしているということ。その中で耐性や自主性を身に着け,自分の言動が必ず自分にはね返ってくることを学び,人と人とのかかわり方,社会性を学習している」と話している。

●日本教育新聞 1998年8月22日 地方出版情報

 本書は写真と文でつづる「新疆ウイグルの子どもたちからのメッセージ」である。中国新疆ウイグル自治区,いわゆるシルクロードの子どもは皆,学校が大好きだという。そこにいじめや不登校はない。なぜか。
 文部省の国際学術調査研究「ウイグル民族と日本の子どもの生活環境の比較研究」の一部として実施された臨地調査で分かったことは,ウイグルの子どもたちは日本の子どもたちがかつてしていた生活,「家族の一員としてよく働き,幼い子の子守りをし,暇があれば仲間と夢中で遊ぶ」という生活を今もしているという事実であったという。
 本書にはそういう子どもたちの日常生活が写真と文でつづられ,明るく健やかな笑顔がまぶしいほどだ。日本の親や教師が何をすべきかが具体的に示される。