『ちょっと変わった幼児学用語集』書評


●日本教育新聞 1996年6月8日

多面的に「幼児」を理解
異色の幼児学辞典を出版
森前広島大教授

 幼児学研究で知られる森楙(しげる)さんが,広島大学退官にあたり,異色の幼児学辞典を監修し,出版した。
 題して「ちょっと変わった幼児学用語集」(A5判192ページ,北大路書房刊)。240項目と人名87項目,22編のコラムで構成。幼児心理学,保育学などの成果をふまえており,幼児理解の必須項目を網羅し,教育関係者,特に若い幼稚園教諭にすすめたい内容になっている。
 「幼児学」とは「幼児を対象にした学際的研究」。全体を総合的にとらえる必要のある幼児について,あらゆる面から考察することで,幼児の自然な発達を促進させることをめざす。幼児学研究科があるのは全国でも広島大だけという。
 用語集はその学際的性格を反映。幼児理解の学術的事項や学説,保育計画の基本的事項などのほか,研究推進の方法,幼児について知っておきたい関連事項,制度・政策面などにおよび,この種の用語集には珍しい事項も多く含む。
 たとえば,遊びの分野では遊びが成立する要件を考察し,それが幼児の社会性や自立にどうつながるかを探る項目が目だつ。単なる事項の解説にとどまらず,それらの知見がなぜ,どのようにして保育や子育てに結びつくか,メタ認知的な方向を志向した編集姿勢がうかがえる。
 各項目は遊び,こころ,からだ,保育の内容・方法,制度・政策,社会・文化,基礎概念,人名の8分野にまとめている。
 家族や幼児・子ども観にかかわる社会・文化の各項目など,保育・子育てに携わる者にとって,学説以上に目前の子ども,社会に対する認識が重要であることを浮き彫りにしているといえよう。
 また,コラムとして@発達Aエッセー的幼児教育論B論争C日本の保育者,の各シリーズを収録したのも特色。
 集団保育か家庭保育か,保育の補完機能とともに幼児の社会性の面からのとらえ方が重要と指摘する幼児教育論争シリーズなど,興味深い読み物になっている。