『美と造形の心理学』書評


●Quark 1993年8月号 
 YELLOW QUARK 著者が語る「私の新刊」  NEW BOOKS INTERVIEW

美と造形の心理学 編著者 仲谷洋平氏に聞く
 ひとつの絵の中に,若い女性と老婆の2つの顔が隠されているような描き方を多義図形といいます。夢や幻想といった無意識の世界を自由に表現したダリは,しばしばこの手法を使っています。
 本書に紹介した作品「果てしなき謎」には一つ目の顔や犬など,6つのものが隠されているんですよ。彼の絵は,フロイトの精神分析に強い影響を受けているんですね。この手法の絵は,見る側の深層心理によって見え方が全然違ってくるんですよ。
 もともと本書は「造形心理学」を学ぶ学生のテキストに使い,さらに一般の人たちにも楽しんでもらえることを念頭にまとめたもの。造形美術を,心理学的な視点からアプローチしています。ダリの話が出てくる「造形のための知覚論氈E」は私が担当していますが,「色をめぐる話」や「創造性をめぐる話」「絵と“こころ”」を含めた8章は,それぞれ各専門の心理学者が執筆しています。
 脳の働きに人一倍興味を抱いている方なら,「左右の脳と芸術」と「好き嫌いの裏表」の2章が特に読みごたえがあると思います。ここでは,横顔を描かせたとき,90パーセントの人が無意識のうちに左向きにしているというデータも示されています。
 各章ごとに,内容をより理解してもらうための練習問題や心理学トピックスを扱ったコラム記事も入れています。付録の「立体めがね」は,飛びだしてくるような奥ゆき感のある世界を楽しんでもらうためのものです。造形美術の創作活動とは無縁の人も,「あ,こんな見方があったのか」と意外な発見がある1冊のはずです。